ブック・レビュー 天の故郷へのあこがれに生きる者でありたい


伊藤直治
保守バプテスト同盟 古川聖書バプテスト教会牧師

NHK大河ドラマ「軍師 官兵衛」をあなたも見ていますか。黒田官兵衛が活躍した戦国乱世は、キリシタン隆盛の時代でもありました。関ヶ原の戦いが行われた一六〇〇年のキリシタン人口は、推定で五十~七十五万人と言われています。それがザビエル宣教開始から五十年の成果ですから驚きます。また、当時六十人を超えるキリシタン大名がいたということです。その代表的人物が本書で取り上げている黒田官兵衛、高山右近です。
この二人は、信長、秀吉に仕え、両者から信望厚い武将でしたが、地上の主君以上に、天の主君に忠誠を貫く道を選びました。特に、幼きころより培われた右近の信仰には驚嘆させられます。例えば、右近が信長に恭順の道を選ぶか、人質となっていた自分の子どもたちの命を守るか、二者択一の選択を迫られたとき、神に祈り導き出した選択は見事でした。彼は、信長に恭順を示しつつ、子どもたちの命を救ったのです。しかも……続きは本書で。
秀吉の配下にあったときにも、妥協の道を迫られますが、彼は時の支配者の顔色をうかがうことはしません。本書の著者は「秀吉と右近――この二人の息詰まるような対決の中に、人を相手にする人生か、天を相手にする人生か、そのどちらを選ぶのか、という問いが迫ってきます。……すべてが相対的で茫漠とした日本の精神風土の中で、『真理は真理である』と動じなかった右近の姿は、時空を超えて、今も強く訴えかけているのです」(八九頁)と書いていますが、同感です。
また、本書には官兵衛、右近以外にもヒーローがいます。それは名もなきキリシタンたちです。戦国乱世、血を流したのは戦いに明け暮れた武将、その配下の者たちだけではありません。信仰を貫くために命を落としたキリシタン、彼らは残酷な弾圧と迫害のもとで、強靭な信仰に生きていました。かつてそのような日本人がいたということに驚きと感動、そして誇りさえ覚えます。本書を読み、私も天の故郷へのあこがれに生きる者でありたいと、信仰を鼓舞されました。