ブック・レビュー 古期&帝政アラム語及びクムラン死海文書による
『聖書アラム語語彙・用例集』

『聖書アラム語語彙・用例集』
鞭木由行
日本福音キリスト教会連合 生田丘の上キリスト教会牧師

国際的な共通語として用いられたアラム語

 古代セム語の諸言語の中で、アラム語は辞書編纂が遅れている分野の一つですが、そのような状況の中で、日本語で古代アラム語の辞書が出版されたことは喜ばしいことです。

 アラム語はヘブル語ほどには知られていませんが、歴史的に、その果たした役割は、はるかに重要なものでした。そのことを端的に示す出来事が第二列王記十八章に記されています。

 ヒゼキヤに対して降伏を呼びかけた時、アッシリア帝国のラブ・シャケはヘブル語で呼びかけました。そうすることで、ユダの一般民衆にまで直接アピールすることができたからです。それは一種の揺動作戦でした。それに対してユダの書記たちは、「私たちはアラム語がわかるので、アラム語で話してほしい」と注文を付けています。

 この出来事は紀元前七〇一年のことですが、当時、外交交渉にはアラム語が使われていたことがわかります。つまり現在の英語のように、アラム語は国際的な共通語としての位置を占めていました。そのような時代を背景としてダニエル書とエズラ記とは、部分的にアラム語で書かれることになりました。その後もずっと使用され、イエス様も日常的にアラム語を話していたと思われます。そして現代にまで生き残っている言語なのです。

 このたび出版されたのは、聖書アラム語の語彙集で、もっぱらダニエル書とエズラ記に現れる語彙辞書です。全体として二百ページにも満たない小辞典ですが、聖書アラム語を学ぶ者にとっては、便利な道具となっています。各語彙に意味が付され、その語彙の用例が和訳付きで紹介され、しかも、聖書に限られず、タルグムや死海写本、エレファンティネ文書までが引用されています。

 巻末には聖書外のアラム語文書が二十ぺージ以上に渡って紹介されていますが、これは本書の辞書では読むことができないようです。もしそうできたならば、初学者にとってさらに大きな助けとなったでしょう。