ブック・レビュー フクシマの十六人の証言

 フクシマのあの日・あの時を語る 石ころの叫び
高橋浩美
宇治福音自由教会牧師夫人

二〇一一年三月十一日。
その日、十六人の人たちが福島県のどこにいたのかが示され、各自の体験がつづられた本書は、牧師や伝道者、牧師夫人として、家族そして教会の方々、またご自分が関わっている人々のために行動されたことを私たちに教えてくれる。大地震・津波・原発事故から二年が経った今、あの時を振り返って語られているのは、私が考えていた以上に混乱していたということ。
「放射能のもっとも大きな影響は、人の心をこわしてしまうところにある」そんな現実の中で、神様の助けをいただきながら前を向いて頑張っておられる先生方の働きに、ただただ頭が下がる。
そんな中で、家族を避難させるために福島をいったん離れた牧師に対して、つまずいた方がいたという現実。このことが何より私にはつらかった。
あの時、同じ地震の被害を受け、原発の爆発によって目に見えない放射能の恐怖にさらされ、何が起こっているのか十分な情報も与えられずに、神様に祈りつつクリスチャンとして行動した一人ひとりの行動は、その時考えられる最善ではなかったのか。あの時どうすることが一番良かったのか、この本を読んでも私には答えが出なかった。
「自分たちの存在が忘れられるのが一番怖い」というある男性のことば。この証言集は、多くの方の目にとまり、被災している方々に目を向ける機会とされることを願って、送り出されたのだと思う。
どんなに悲惨な時でも、人を思いやり助け合い、覚悟を決めて生きる力を、確かに神様は私たちに与えてくださっている。この本を一人でも多くの方が読んでくださって、自分に与えられている恵みを再確認していただきたいと思う。そして私は、まず一度福島に行って、この本に書かれている場所を知りたいと思った。