ブック・レビュー 『風言葉』

『風言葉』
広谷 和文
聖公会神学院校長

やさしい気持ちで一日を

 著者の小宮山先生は、朝早く広島の空港から飛行機に乗って、ニコラ・バレ聖堂(東京・四谷)で行われる「南無アッバ・ミサ」に駆けつけられるという。それは、そこで語られる井上洋治神父の「福音話」(ふくいんばなし)を聞きたい一心からであるとのこと。昨年まで道東の釧路に住んでいた私も、このミサに出てみたいと思っていたが、飛行機で出かけることは考えも及ばなかった。その意味でも、先生の熱意に脱帽する。

 四十篇から成るエッセーが中心になっているが、著者の話題の広さ、切り口の新鮮さにまず感銘を受ける。はじめから終わりまで、「説教臭さ」や押し付けがましいところがない。「クリスチャン」でなければ理解できないという類の文章も一切ない。それでいて、福音のやさしさ、温かさ、豊かさがジワッーと伝わってくるのだから不思議だ。一篇一篇独立した本書の内容を紹介するのは難しいが、その基調は、「入院」に引用されている「生きることも、死ぬことも、そして人生も、大変な大仕事なのよね……」という三浦綾子さんの言葉に表現されているといってよいだろう。

 エッセーの一篇がちょうど見開き二頁に収められていることから、そのことを生かした読み方、活用の仕方もあるように思う。例えば私なら、本書を幼稚園や保育園の朝の礼拝に用いたい。忙しい朝の五分か十分の礼拝でも、比較的ゆっくり、かみしめるように読めるのではないだろうか。その言葉を耳にして、やさしい気持ちで一日をスタートできるなら、これほどありがたいことはあるまい。また、日々の黙想の手引きにもお勧めしたいし、もちろん通勤電車の中でつり革につかまりながら、頁をめくるのもよいだろう。


 読後、私の胸にも一片の風がよぎり、一つの聖句が浮かんだ。
 「風に己れを 委せきって お生きなさい」(ガラテヤの信徒への手紙五章一六節 井上洋治訳)