ブック・レビュー 『福音主義神学における牧会』

『福音主義神学における牧会』
古屋 安雄
国際基督教大学名誉牧師

牧会現場の緊急課題についての講演と発題

 本書は昨年十一月に、福音主義神学会が「福音的神学における牧会」をテーマに神戸で全国研究会をひらいた、その結実である。三百五十人の学会員の半数近くが参加したというから、いかにこのテーマが現代の緊急課題であるかを示している。もっとも、これだけ多くの参加者があったのは、主講師が加藤常昭牧師だったからであろう。同牧師は日本基督教団という外からの人であるが、かつて東京神学大学で実践神学を教え、鎌倉雪ノ下教会の牧師であった、我が国の牧会神学第一人者と見なされているからである。

 はじめに本書の監修者である牧田吉和・本会実行委員長の開会説教「来てください、われらの大牧者キリストよ」があり、そのあと加藤牧師が与えられたテーマにしたがって、「牧会と教会」「牧会と牧会者」「牧会と説教」「牧会とカウンセリング」という四回の講演をしている。そのあとセッションごとになされたと思われる河野勇一、堀肇、宮村武夫、窪寺俊之の四氏の「相互に牧会する教会」「牧会者の喜びと苦悩」「愛の業としての説教」「牧会と牧会カウンセリング」という発題がつづく。

 いずれも、この緊急課題にたいして、どのように考えているかが示されていて、読者は牧師であろうと、信徒であろうと、それぞれが本書から学ぶことは多いであろう。

 しかし正直言って、福音派に遠慮して講演したためか、加藤氏が多くの著作で主張している日頃の迫力が感じられない。また、その講演に対する応答的な発題といわれているが、既に準備されており、しかも本書のために書き改めたのか、これも迫力に乏しい。本会議の記録集ではない、と断っているが、むしろそのときの質疑応答を記録すれば、もっと活発な対話となり、それこそ今日の緊急課題である聖書の歴史研究と説教、心理学と牧会カウンセリングの関係などについての興味深い議論となったであろう。