ブック・レビュー 『父よ、父たちよ』

『父よ、父たちよ』
中谷 建晴
単立 堺大浜キリスト教会牧師

真の父に向かう旅へと誘う一冊

 本書は、従来、「社会学や心理学に行かなければ取り上げられない」(九一頁)テーマであった「父親であること」について、神学的に、存在論的に取り組もうとした意欲的な作品です。しかも、著者は、単に知的好奇心からではなく、自分自身のやむにやまれぬ思いから、このようなテーマに取り組んでおられることが、本書全体を通して伝わって来ます。著者のそのような姿勢が、引用されている数多くの具体例と共に本書の迫力と魅力を生み出しているように思われます。
著者は「父の咎を子に報い、三代、四代にまで及ぼし」(出エジプト二〇・五)の御言葉を引用しながら、「罪は自分だけのところにとどまっていないで、必ず子どもたちに及んでいく」(三〇頁)と語ります。
さらに、「失敗があり、罪があり、とんでもないことが起こる。(略)自分だけであれば、それなりにその結果を受け止めることができる。現実はそれで家族を悲しませ、他の人の人生をだめにしてしまう。そんな自分の思いをどうすることもできない。そんな自分であることを知る」(二六九頁)と語ります。
つまり、男性にとって「父親」は避けて通ることのできないテーマであり、うまく避けたつもり、蓋をしたつもりでいても、そのまま放っておくと、思いもかけないとんでもない形で最も愛する者たちを害することになってしまうということを、多くの例を挙げて示しています。では、どうすればよいのか。「家族と呼ばれるすべてのものの名の元である父」(エペソ三・一五)、父なる神様、真の父なるお方を本当の意味で知り、この方の子とされ、この方の愛を受けて行く、そこにこそ光がある、いや、そこにしか光はない、こう著者は語っています。
結論に至るまでの記述は著者と共に、また、多くの聖徒たちと共に、自分自身も渇いた魂を抱えながら、しかし、どこかに希望を感じながら、旅をしているような気にさせられます。多くの方が本書を通して、その真の父に向かう旅へと踏み出されることを願います。