ブック・レビュー 『新版 パウロ伝』

『新版 パウロ伝』
村瀬俊夫
日本長老教会教師

着眼点の確かさゆえに百年を越えて読み継がれる名著

 名著としての評価が高いジェームズ・ストーカー著『パウロ伝』の邦訳版が、初版発行から四十四年を経て、装いもあらたに新版として復刊されたことを心から喜びたい。訳者の村岡崇光氏は、なんと弱冠二十五歳で、この名著の翻訳をされた。その後、訳者はエルサレムのヘブライ大学に留学、聖書ヘブライ語構文の問題を扱った論文で博士号を取得、以後、英国、オーストラリア、オランダの各大学で、聖書語学を講じてこられた。

 訳者の語学力は日本語においても早くから遺憾なく発揮されており、この訳書の日本文は、最初から極めて流麗なものであった。今回の新版では、それに多少の訂正を試みられたようで、読み始めたら、どんどん引き込まれて、途中でやめることができないほど読みやすい名文になっている。ぜひ、ひとりでも多くの方が、本書を手にとって、それを試していただきたい。

 本書の内容であるが、これを読めば、パウロのことが、その生涯と思想の両面において、よくわかるようになっている。「パウロの歴史上の位置」から説き起こし、異邦人への福音宣教者として、キリスト教の普遍性を確立するのに貢献したパウロの人物像をコンパクトに提示してくれている。

 回心に至るまでのこと、そして回心が彼の思想に及ぼした影響として「パウロの福音」について、簡にして要を得た説明がなされる。それに続く三次にわたる伝道旅行の記述も、その中で行われた著作活動についての説明も、実に手際よくなされていて、パウロが何をしたかを明確に教えてくれている。

 第二次伝道旅行の記述では、マケドニヤにおける働きの顕著な一面として女性たちが演じた役割に言及し、「女性と福音」の項を設けている。そのような着眼点の確かさが、一八八四年に出版された原著が、以来(その後の聖書学の進歩というハンディを乗り越え)たびたび版を重ねて現代にまで読み継がれている所以ではないだろうか。