ブック・レビュー 『愛を終わりまで』
最後の晩餐で語られた主イエスのメッセージ

『愛を終わりまで』最後の晩餐で語られた主イエスのメッセージ
萩原雄介
イムマヌエル綜合伝道団・インマヌエル金沢キリスト教会牧師

主ご自身の恵みの世界に吸い込まれ、その恵みに生きたいと願う一冊

 受難週に間に合うように出版されたタイムリーな本書を読む機会が与えられたことをまず感謝いたします。

 この本は、昨年一月から十一月にかけて、小平聖書キリスト教会の講壇で語られたヨハネの福音書一三章から一七章までの講解説教を十五回にまとめたものです。十字架を前にした主の遺言的メッセージが、主の行動(洗足)や告別説教、そして祈りの中に満ちています。

 著者のお兄様である遠藤嘉信牧師は、闘病の中で、聖書神学舎の教師、また和泉福音教会の牧師として、さらに本の執筆を最期まで続けられました。そのお兄様が召天された六月と時期の重なる「主の十字架」直前に関わるメッセージは、特に胸に迫ります。

 原語を引用し解説されながらも、文章表現が自然体で学問臭くないため理解しやすく、しかも、話し言葉で書かれているので、あたかも、生の説教を聴いているように感じました。

 例えば、「4 今、見つめるべきこと」の「新しい戒め」の項目のところで、「このみおしえのどこに『新しさ』があるのでしょうか」と問いかけながら、ローマ人への手紙五章七・八節を引用し、「その愛の新しさです。……そこに、新しさがあるのです。……そこに、キリストの愛を知らされた者に求められる『新しい生き方、新しい歩み』の出発点が示されています」と。「5 心を騒がしてはなりません」や、「7 わたしの平安を与えます」などでは、主が、弟子たちの、そして私たちの「今の困難」をご存じであるだけではなく、「やがての祝福」のことに配慮しておられる主の深い御心が浮き彫りにされています。

 読みながら、「うん、うん」とうなずきつつ引き込まれて行きました。とにかく、この書を手にした者は、主ご自身の恵みの世界に吸い込まれ、その恵みに生きたいと願う一冊です。大江健三郎氏のエッセイ集『新年の挨拶』の一節を想い起こしました。同氏の兄上が闘病され亡くなる前に言われた一言。「弟が私のチャンピオンですから」。