ブック・レビュー 『心あたたまる33のメッセージ』

『心あたたまる33のメッセージ』
川口 一彦
日本福音キリスト教会連合 春日井福音キリスト教会 牧師

ガン治療のなかにあって感謝と希望を語り続けた伝道者

 本書は、二〇〇二年十一月に召天された梶日出男牧師の五冊目の著書である。梶師は十二年近く、ガン治療をとおして難病で苦しむ多くの人に伝道し、困難の中にいた日系ブラジル人を支援し、教会の建設に忠実に仕えた稀有な伝道牧師であった。

 梶師は生前、手作りの会堂と納骨堂を建て、貴重な歩みを四冊にまとめた。その中から心あたたまる部分を同社の編集者が抜粋した。最後の五章「主よ、みもとへ」では、死を前に、礼拝で語っていたⅡテモテ四章からの告別メッセージと夫妻の証しを加え、本書はさらなる新鮮さをかもし出している。

 梶師の全著作を読むと、ありのままがうかがえる。一般に話さないし聞けないと思われる生活の様子を、彼の優れた筆致で見事に描き出している。自分の弱さ、隠れて見えない夫婦や親子関係を露呈し、ガン治療の苦しみの中にあっても感謝と希望を綴りつづけた。

 病床の中、召されるまで発していた言葉は「感謝」であった。本書には「感謝」が三十回ほど出る。どうしてこんな病気になったのか、なぜ私だけが苦しむのかといったつぶやきや不信仰的な表現は彼から聞くことはなかった。万事がキリストにあって益で、感謝、感謝であった。

 彼は伝道者として歩んだ。自分の死が近づいたのを知っても口にし実行していたのが「伝道」であった。協力牧師として仕えていた私は、彼が「あそこの公民館で集会したい」と言えば公民館まで出向いた。

 実は、彼が本来、五冊目に書きたかったテーマは「聖霊について」であった。教会内外で聖霊論の見解が様々ある中で、自らの立場を書き、教会を健全に導く使命を覚えていた。ある宣教団体の集会に招かれては、「私はもうすぐ死にますが、皆さんはぜひ聖書を語ってくださるように」と忠言していた。

 本書を読み、「彼は死にましたが、その信仰によって、今もなお語っています。」(へブル一一・四)の聖句が響いてきた。本書が多くの人に祝福をもたらすよう願ってやまない。