ブック・レビュー 『何という愛』

『何という愛』
守部 喜雅
「百万人の福音」編集長

ナチス強制収容所で体験した苦難と愛から紡ぎ出されたエッセイ集

 たとえば、こんな一節がある。〈……点呼のために並んでいる時、私の名が呼ばれた。その瞬間、死が間近に迫っていると思った。一番に呼ばれたので、最前列に立たなければならないと思った。私も他の人もみな、名を呼ばれたのは処刑されるためだと思った。

 私はそこに三時間も立たされた。隣には、初対面のオランダ人の少女がいた。私は心の中でつぶやいた。地上で福音を伝えられるのはこの子が最後だ、と。そして少女に福音を伝えた。彼女は自分の人生について話してくれた。私は、「イエス様はあなたを愛しておられるのよ。だから、ご自分の命を捨てて十字架であなたの罪を背負ってくださったの」と語った。その子はイエス様を受け入れてくれた。私は殺されずに釈放された。……〉

 冒頭から長い引用になったが、本書に収められている四十七篇のエッセイは、すべて、著者の苦難と愛の体験からつむぎ出されたものである。

 一九八二年、オランダに生まれた著者は、第二次世界大戦中に大勢のユダヤ人をかくまったために、一九四四年二月、当時のドイツを席巻していたナチスの秘密警察ゲシュタポに捕らえられ、四か月を独房で過ごし、さらに釈放される一九四五年一月までを、凄惨な強制収容所で過ごした。冒頭の引用箇所は、その悪名高い強制収容所を、奇跡的に釈放される直前の出来事を書き記したものだが、その後の著者の人生も、キリストの福音を心傷ついた人々に伝えるために費やされた。

 世界的ベストセラーとなったその著作『わたしの隠れ場』によってコーリー・テン・ブームの名は、日本のクリスチャンに忘れがたいものとなったが本書の訳者もその感動にふれた一人である。聖書の言葉が生活の場で生きた力となっている一つひとつの出会いの物語は、特に、信仰に行き詰まりを憶えている人には目からうろこが落ちるような生きるヒントを与えてくれるであろう。