ブック・レビュー 『ティムはだいじなともだち』

『ティムはだいじなともだち』
辻 紀子
翻訳家

やさしく「ぼく」の胸にささったトゲの痛みから解放してくれる

ラブ・ユア・ネーバー
「あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ」(マタイ一九・一九)

 イエスの教えの中でも、実行するのがもっとも困難であるため、この聖句はいつも私の目の前にある。

 この本の主人公「ぼく」の家の隣には、まったくいやな子、ティムが住んでいる。だれとでも友だちになれるけれど、このティムだけは絶対に好きになれない、と「ぼく」はおばあさんに訴える。しかし、おばあさんはにこにこ聖書を開いて、この聖句を読んだ。「ぼく」は死にそうなほど驚き、好きになれない正当な理由をあげて、悩みに悩む。

 私たちも、できるならおつき合いはごめんこうむりたい人を心に持っている。「殺すな、盗むな、姦淫するな、偽証するな、父母を敬え……」はどうにか守られる教えとしても、「隣人を……」は守れないため、胸にささったトゲとなることが多い。著者は、実にやさしく「ぼく」を心のトゲの痛みから解放してくれる。ティムの心の痛みを「ぼく」に気づかせ、立ち上がってそばに行き、「どうしたの? なかよくやっていきたいんだ」と声をかけさせる。ティムの目はきらきらし、「ほんとう? やった!」と叫んだ。二人の男の子の心を占めていた疑い、おののき、喜びは読む者に感動を与える。著者のさわやかなことば、子どもたちの柔らかな感性、著者の積極的な信仰、それに基づく生き方は明るい。

 人を憎み、嫌いになることは、悩む者の心に文字どおり苦い痛みを与え続ける。この苦痛から解放される快感は、神の恵みの解放感である。主イエスは私だけでなく、その人のためにも救いの十字架におつきになったことを深く思う。

 訳者の美しい日本語はひたひたと大人に語りせまってくる。レーガン女史の絵は独特でシンプルなスタイルで、子どもの心の素直さが画面すみずみまで表現されている。大人も持ちたい一冊である。