ブック・レビュー 『キリストの心で』

『キリストの心で』
工藤 良一
日本ホーリネス教団 井土ヶ谷キリスト教会 牧師

キリストの心が私の心となるために

 私たちは日常生活の中で、小さなこと、大きなこと、ときには人生を決める二者択一の選択を余儀なくされることがあります。そのとき、何を基準にしてその方向性を決断するのでしょうか。その鍵となるのが本書です。自分の霊性だけでなく、現に「主のみこころ」がわからなくて悩んでいる方への贈り物とするのもいいでしょう。私も数冊買ってプレゼントをすると大変喜ばれました。

 著者デニス・キンローは、米国の福音派を代表する旧約学者の一人で、アズベリー大学学長も務められました。長年あたためてきた『キリストの心で』(原著 the mind of Christ)というテーマを、本書では聖書の深い洞察にそって、説教のように語り聞かせてくれます。著者が「私はこの本を『キリストの心を私の心とする』というテーマで、聖書を深く探求するために書きました」と述べているように、聖書全巻からその洞察を展開しています。

 さすが言語学者だけあって、ギリシャ語の意味(字義的解釈)をきちんと踏まえています。例えば、「フロネオー」(思う)という動詞を取り上げているのは大変興味深いことです。「あなたは神のことを思わないで、人のことを思っている」(マルコ8:33)は、ギリシャ語では文字どおり、「あなたは神のような心構えではない」「あなたは神が考えているように考えていない」という意味であるそうです。

 また読者がわかりやすいように適切な実話を引用しています。それがタイムリーで、当を得た証しなので、単なる聖書研究にとどまることなく、親しみやすさを加え、さらに読者をひきつけています。

 牧会者として思うことは、多くの信徒がどっちの道に進んだらよいか悩んでいるということです。大切なのは、そのときキリストが何を思い、キリストならどうするだろうかと祈って決断することではないでしょうか。本書がその解決の糸口になってくれることを願ってやみません。