ブック・レビュー 『そのままのきみがすき』
ヤングアダルト版

『そのままのきみがすき』
冬木 久恵
CLC BOOKS 京都店 スタッフ

サイズもコンパクトに、訳も大人向けになって新登場

 絵本はすべて子どものためのもの。そう決めておられる方がいらっしゃいます。けれど、小さな子どもから大人までそれぞれに語りかけてくれる絵本はあります。本書もそんな絵本の一冊。

 王様に養子として迎えられることになった五人のみなし子。王様の子にふさわしくなろうと特技を生かすことに必死でがんばる兄や姉。でも結局、何の特技もなくて悩む末娘だけが「そのままのきみがすきなんだよ」と、王様に迎えられる。そんな素朴な物語なのですが「おしまい!」で終わらない何かが心に残る本です。年齢や立場により違いはあっても一人一人のこころに与えられる何かがあります。

 小さな子ども達は、末娘が兄姉を訪れては邪魔にされ、特技のない自分に繰り返しがっかりする物語の展開に引き込まれると思います。そして、そのままの姿で幸せに出会う末娘にホッとし嬉しくなることでしょう。

 でも、大人はもっと複雑です。自分の特技を生かしてがんばるのは大切。でも、やりすぎて忙しくて、考えた方がいいかな? と思うかもしれません。クリスチャンである私は、旅の商人の姿をしてやって来る王様がイエス様に思えて、あの末娘のように「このおじさんが王様に違いないわ」と、分かるだろうかと少し心配に……。

 絵もとてもいいです。表情が豊かで登場人物の言葉にならない胸の内までもが伝わってきます。末娘の笑顔からは癒しさえ感じられ、思わず微笑み返したくなります。

 と言っても通勤途中に新聞の代わりに大きな絵本を開くようなことはやはり変!? だから、ヤングアダルト版の登場なのですね。サイズも小さめ。文章も大人用に訳し直して下さっています。これなら「大人に絵本はちょっと」と言われる方にも堂々とおすすめできます。プレゼントにも最適。

 この本から何を受けとめることができるか。ぜひお試し下さい。