ブック・レビュー 『さあ、天を見上げなさい』
神の恩寵とアブラハムの信仰

『さあ、天を見上げなさい』神の恩寵とアブラハムの信仰
波多 康
ゴスペル企画ミニストリー代表

骨太釈義に裏付けされ、悩み多きアブラハムと神とがリアルに迫る!

 私はよく映画を見る。そして人間の心の動きが、鋭く洞察されているような長編映画に出会うと嬉しくなる。何度もため息が出て、うなり、いろいろと考える。登場人物の中に自分の姿を見、共鳴し、彼らの喜びや苦しみが自分の心を揺り動かす。いつしか我を忘れてその世界に引き込まれ、壮大な物語の主人公になってしまう。見終わると、深くダイナミックな感動を伴った味わい深い充足感に包まれる。

 不適切かもしれないが、本書を読み終えた時、不思議とそれに似た感覚を覚えた。筆者のしっかりとした骨太の釈義に裏打ちされた、鋭くバランスの良い人間洞察によって、立派な模範的信仰者としてではなく、私たちと同じ悩み多き罪人としての生身のアブラハムが、そして彼にどこまでも関わろうとする主権者なる神が、リアルに迫ってくる。いつしかその世界に引き込まれていく。

 さて、映画の場合は、終演と同時に夢は覚め現実が戻る。しかし本書では夢は覚めない。聖書の世界は夢ではなく、聖書の世界こそが従うべき現実であることに気づく。そのため主の言葉が、自分への現実の語りかけとして心に留まる。主の愛、主による慰め、励まし、喜びがそのまま心に留まるのである。

 私たちは時に、聖書の世界と私たちの生きる世界を区別することがある。しかし本書は「聖書の世界と私たちの生きる世界」「聖書の人物と自分」との垣根をみごとに取り払う。最終的には、聖書に導かれて生きる喜び、主にあって生きる平安へと導いてくれる。

 映画のちらし風に言えば、「神に導かれつつも迷い、失敗し、悩む……。どこまでも弱く悩み多き罪人アブラハム。彼を豊かに取り扱い、自身との深い信頼関係に導かれようとする慈愛に富んだ全能なる神。アブラハムが、主権者なる神が、リアルに迫りくる感動の大巨編! この感動お見逃しなく!」といったところだろうか。この映画必見! いやこの書物必読! この感動お読み逃しなく!