これって何が論点?! 第23回 平和とは名ばかり、安保法案

星出卓也
日本長老教会
西武柳沢キリスト教会牧師。
日本福音同盟(JEA)社会委員会委員、日本キリスト教協議会(NCC)靖国
神社問題委員会委員。

安倍内閣は、昨年七月一日に集団的自衛権の行使容認を閣議決定。これに基づき、今年五月十四日には「平和安全法整備法案」(十の法律を一括改正)及び「国際平和支援法案」(新設)も閣議決定し、翌十五日に国会提出しました。これらが現在“安保法案”と呼ばれているものです(=以下、同法案)。同法案は、憲法審査会に参考人招致された憲法学者が三人とも、「憲法違反である」と厳しく批判しました。
しかし安倍内閣は、今通常国会の会期末スレスレの六月二十二日、戦後最長九十五日の会期延長を決定し、何としてもこの法案を通す、との勢いで臨んでいます。会期末の九月二十七日に強行採決される可能性が十分ありますので、私たちはこの日が「憲法の命日」とならないよう、同法案の問題をしっかり把握し、反対デモや要請、意志表明により、主権者として現政権に問いたいと思います。

Q この“安保法案”は、どこが違憲?

主な問題点は、①日本国に対する武力攻撃がないにもかかわらず、集団的自衛権に基づいて相手国を攻撃できる、②武力行使を行う外国の軍隊への支援活動等で、戦闘行為の現場以外ならどこへでも自衛隊が行き、活動できる(自衛隊が武力行使する危険が格段に高まる)、③国際「平和(軍事)」協力業務において、自衛隊が任務遂行のための武器使用が可能となる(②と同じく、危険が高まる)点です。
これまでも歴代政権は、「自衛権」を認めてきましたが、それは集団的ではなく個別的自衛権であり、「我が国に対して武力攻撃が加えられた場合に限って」これを排除する、最小限度の実力行使にとどめる、という立場だったのです。ところが同法案では、「我が国と密接に関係のある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」(存立危機事態)などの新たな三要件の下ならば武力行使が認められる、とします。
同盟国に加えられる攻撃が、なぜ、自国の存立を根底から覆す事態となるのでしょう。「権利が根底から覆される明白な危険」という表現もあいまいで、政府の主観的な判断のみで恣意的に「明白な危険である」と定められる可能性があります(国会の事前承認も不要)。とどめは、昨年施行された「特定秘密保護法」で、これにより政府の判断を検証する情報が非開示となれば、検証不可能となります。
特に密接な関係を持っている他国が先制攻撃した結果の紛争に対しても、自衛隊が協力要請されて、集団的自衛権ならぬ集団的侵略に、日本が引きずり込まれる可能性のあるキケンな法案なのです。現在、日本と密接な関係にあるアメリカ政府は、一貫して先制攻撃を安全保障政策の方針として明言しています。今の自衛隊の“専守防衛”の歯止めが外されれば、自衛隊員たちはより危険な状況に置かれるでしょう。米国に要請されるがままに違法な武力攻撃に加担し、多くの悲劇をうむことになりかねません。

Q 自衛隊の働きは、どう変わってしまうのですか?

現在の自衛隊の実力行使は、「周辺事態法」によって日本の周辺地理に限定されています。自衛隊の防衛は受動的なものに限られるという理解がなされてきたためです。
しかし同法案では、その「周辺」という地理的制約を外し、自国の平和と安全を脅かす「重要影響事態」であれば、戦闘行為が行われている現場以外、どこでも米国や他国の軍隊と協力して支援活動ができる、とします。また、安倍首相は、ホルムズ海峡が機雷で封鎖された場合、日本は経済的打撃を受けるとの例をあげ、「経済的理由」での海外派兵も可能との見方を示しました。そうなると、「存立危機事態」「重要影響事態」の適用範囲は際限なく広がります。
自衛隊が行う活動も飛躍的に拡大します。後方支援活動の「物品・役務の提供」では、現在の「周辺事態法」で禁止している弾薬の提供や、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油・整備も認められます。これらは「兵站活動(Military Logistics)」と呼ばれ、武力行使と一体化しているというのが常識で、「後方支援であり、武力行使ではない」という詭弁は通用しません。戦争では弾薬や燃料等の輸送・補給を絶つことが重要となるので、自衛隊が攻撃の的となる可能性があります。それに対して自衛措置として応戦すれば、必然的に自衛隊は武力紛争に巻き込まれ、戦闘状態に陥ることは十分考えられることです。
さらに、従来の「自己保存型の武器使用」に加えて、国連平和維持活動(PKO)参加でも禁止してきた「任務遂行のための武器使用」を新たに認めるとしています。安全確保業務や駆けつけ警護といった、禁止されていた危険な業務も認め、「業務を妨害する行為を排除するため」の武器使用も認める。これはどう考えても武力行使であり、自衛隊の職務は、戦闘行為も含むものとなるということです。
同法案が通ることは、憲法九条の戦争放棄理念の否定にとどまらず、権力の暴走がとめられなくなる、まさに国民主権の存立を根底から覆す、危機事態となることでしょう。

推薦図書
豊下楢彦著『集団的自衛権とは何か』(岩波新書1081、2007年)
柳澤協二著『亡国の集団的自衛権』(集英社新書0774A、2015年)
日本弁護士連合会の「安全保障法制改定法案に対する意見書」
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2015/150618.html