これって何が論点?! 第15回 憲法は、だれのためのもの?

星出卓也
日本長老教会
西武柳沢キリスト教会牧師。
日本福音同盟(JEA)社会委員会委員、日本キリスト教協議会(NCC)靖国
神社問題委員会委員。

「従軍慰安婦問題」って…?朝日新聞は、一九八二年に「従軍慰安婦」について掲載した「吉田証言」を撤回したそうですが、戦争中に国が関与した〝従軍慰安婦〟は存在しなかったのですか? 〝従軍慰安婦問題〟とはなんですか?

「従軍慰安婦」とは、一九三二年の上海事変から一九四五年の日本の太平洋戦争敗戦までの間に、日本軍が占領地や戦地で作った「慰安所」に入れられて、日本の軍人や軍属に性の相手をさせられた女性たちのことです。「慰安婦」という言葉そのものに深刻な問題があり、女性に男性の性の相手をさせることによって「慰安」とする、というゾッとする考えを背景にしています。「慰安婦問題」は、単なる外交問題以前に女性蔑視の問題であり、女性の人間としての尊厳に関わる人権侵害の問題で、国際的に「慰安婦制度」は「Sexual Slavery(性奴隷状態)」と表記されています。

Q今、「慰安婦問題」の何が問題になっているの?

二〇〇七年の第一次安倍政権時にも、安倍首相は「軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」とする政府答弁書を閣議決定しました。第二次安倍政権発足時にも「河野談話見直し論」を主張し、今年二月には「検証チーム」を発足します。六月二十日の検証報告では、河野談話作成過程には韓国政府の圧力があり、事実確認に重大な問題がある、としています。そして八月五日に、朝日新聞は一九八二年から報じた吉田清治氏の証言記事を「取り消す」と改めて発表しました。吉田清治氏の証言とは大阪での講演内容で「済州島(朝鮮半島の西南端)で二百人の若い朝鮮人女性を『狩り出した』」というものでしたが、後の調査で、証拠の裏付けがなく、捏造の可能性があると、河野談話以前から判明していました。ところが今、「すべては朝日新聞の捏造から始まった」「朝日新聞は従軍慰安婦捏造を謝罪せよ」との糾弾が諸方面から起こり、河野談話廃止論にまで発展しています。

Q「河野談話」って何?

「河野談話」とは、一九九三年八月四日に発表された「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話」です。戦後、「慰安婦」被害者の存在は一部の著作等で知られながらも、日本が解決すべき課題としては長年見過ごされてきました。一九九〇年六月六日の第一一八回国会参議院予算委員会で「民間の業者がそうした方々を軍とともに連れて歩いているとか、そういうふうな状況のようで」と、軍の関与を否定し、責任は政府にない旨を答弁します。
これに抗議運動が起こり、一九九一年八月に金学順さんが韓国で初めて実名で証言を始めます。金さんは同年十二月に日本政府を東京地裁に提訴し、こうして「慰安婦問題」が日本で社会問題となり、国際社会にも大きな反響を与えます。続いて韓国、フィリピン、台湾、北朝鮮、中国、インドネシア、マレーシア、オランダ、東ティモールなどの元「慰安婦」被害者の女性たちが証言を始めました。
一九九二年には、日本史研究者の吉見義明中央大学教授が軍の関与を示す公文書が防衛庁防衛図書館から発見されたことを発表。それにより、日本政府が旧日本軍の関与と強制性を認めたのが「河野談話」です。それでも河野談話は「慰安婦制度」の創設・運営主体と責任をあいまいに表現しました。そのため政府は被害者への国家賠償は行わず、民間から募金を集める「女性のためのアジア平和国民基金」で賠償を行ったため、賠償受け取り拒否が続出しました。

Q河野談話には裏づけがなかったのですか?

「吉田清治証言は捏造だった=慰安婦問題そのものが朝日新聞の誤報による捏造だった=朝日は国際世論に嘘を広めた」というキャンペーンがされています。ですが「吉田証言」が「慰安婦問題」の始まりだった事実はありません。日本で大きな社会問題となり、国際問題となったのは、先に述べたように一九九一年八月に金学順さんが元「慰安婦」として名乗りを上げたことです。金学順さんの実名証言が、すべての始まりで、それを知った吉見教授の調査がそれを裏づけた、というのが事実です。一九九三年からは研究者、法律家、市民による多くの研究、元「慰安婦」や加害将兵の証言や戦記・回想録の発掘により、被害実態が解明され、新しい証拠もたくさん発見されています。「吉田証言の捏造=国の関与はなかった」という論調は、これらの二十年以上にわたる研究・調査の成果を完全に無視しています。
一九三八年三月四日の陸軍省副官通牒「軍慰安所従業婦等募集に関する件」という文章で、中国にいる北支那方面軍・中支那派遣軍が選定した業者(軍属)が日本内地で誘拐まがいの方法で「慰安婦」を集めるなどの事件が少なからざるため、今後は、派遣軍は業者の選定を周到適切にし、募集の際は憲兵・警察との連繋を密にするようにと指示をしています。この通牒は軍が「慰安婦」の徴募に深く関与し、むしろ統制していた証拠です。「慰安婦制度」は軍のために軍が設置したもので、慰安所使用規定も軍の現地部隊が作っています。「常州駐屯間内務規定」では、将校、下士官、兵士の利用時間帯、利用料金までも定めています。国が戦争遂行のため、男性を兵士として強制的に徴用し、兵士の戦意高揚のために女性に性のサービスの提供をさせるという異常さに、慰安婦問題の本質があります。

推薦図書
FIGHT FOR JUSTICE 日本軍「慰安婦」-忘却への抵抗・未来の責任 
http://fightforjustice.info/ HPですが、かなり詳しいです。日本軍の資料が豊富に掲載。