『たいせつなきみ』シリーズ10周年 幕が降りても終わらない物語

日高 恵
俳優 『聴く聖書』ディレクター、日本福音キリスト教会連合 立川駅前キリスト教会会員

 二〇〇〇年十二月に「とっておきのクリスマス」と題して朗読劇公演を行った。いのちのことば社を通じて米国の出版社に上演許可を頂いた「たいせつなきみ」が目玉演目だった。これが、J’s倶楽部というユニットの旗揚げ公演となり、〇六年十二月まで、通算五回の劇場公演を行う発端となった。

 舞台上には、グランドピアノと椅子が二脚。友野富美子という小柄な女優がパンチネロを演じ、長身の私は、ルシアとエリ。書き言葉をそのまま台詞として立体的にする「朗読劇」なので、その他の登場人物、ナレーター的記述は、適宜二人の女優で分けて語る。そこに、ピアニスト竹内晃二が作曲した曲が、時にはテーマ音楽、時には効果音として流れ、物語はすすんでいく。シンプルな作りだが、演出家・津々見俊丈の緻密な計算による演出が施されている。

 この作品を演じたことによって、私たちは神様のみこころを知る。一度の公演で終わるはずの活動が、結果七年間続くこととなった。その後、たいせつなきみシリーズでは、「ほんとうにたいせつなもの」(〇三年)、「きみはきみらしく」(〇四年)、「たったひとりのきみ」(〇五年)を上演した。

 この作品の魅力はパンチネロの人間臭さにあると思う。限界、不安、劣等感を抱えたパンチネロ。しかし、「あなたの存在そのものがたいせつだ」と断言して愛を注ぎ出す「つくりぬし」に出会うことによって、彼の痛みは癒やされる。それも、だんだんと、である。一作目のラストで落ちるダメじるしは「ひとつ」である。これがリアルでいい。二作目になるとルシア以外の他者との関係が描かれ、三作目には一緒に遊ぶ仲間が与えられ、そして四作目にはついに親友ルシアにも裏切られるというつらい経験をする。人間関係の縮図が見事に現れ、その折々に「つくりぬし」からの助けによって彼は逞しく成長していく。キリスト者でなくても、置き忘れた思いの琴線に触れ、涙し、観客は心の澱を洗い流すような体験をするのだと思う。

 芝居の幕は必ず降りる。けれど、この物語のもつ真理は人の心に残り、働き続ける。過去に私たちの朗読劇を見てくださった方々の心の中にも、真理は残り、主は働き続けておられることに思いを馳せ、祈り続けたい。