「原理主義」と「福音主義」 第3回 エバンジェリカルをめぐって─アメリカ教会と日本教会(前編)

宇田 進
東京基督教大学名誉教授 元ウェストミンスター神学校客員教授

 前回はマスコミによる“ブッシュたたき”と、その支持基盤とされているキリスト教ファンダメンタリズム(原理主義)、および福音派批判の状況を垣間見た。今回は、問題視されてきているアメリカ人の宗教意識と教会について、ごく基本的なことを確認した上で、日本のキリスト教界の反応・見方に少々注目したい。

 1981年に実施された『宗教に関する関心度』を1.教会出席率、2.神を信じるか否か、3.日常生活における神信仰の重要性、4.死後の世界を重要視しているか否か、5.心の安らぎを宗教から得られるか、6.宗教は人々の求めに答えているかの六点で調査した結果、フランスでは肯定的な回答が32%であるのに対し、アメリカの場合は実に67%という結果になった。

 また、87年の『宗教は大切か』という調査では、「非常に大切」が54%、「かなり大切」が31%と答え、それまでの傾向と比較して、宗教への関心度のカーブは上昇線を描いている(G.ギャラップ─ギャラップ社の代表の彼は、福音派の「クリスチャニティ・トゥディ」誌のインタビューで、自分が聖公会の福音派に属していることを明言している─他篇『民衆の宗教─90年代におけるアメリカ人の信仰 』1989)。

 ちなみに日本人の宗教観は、以上のようなアメリカ人の場合と比較すると、きわめて対象的である。

 読売新聞社の「宗教」に関する全国世論調査(2001)では、幸せな生活を送るうえで宗教は「大切である」が34%で、「そうは思わない」が62%となっている。また、何か宗教を「信じている」という人は22%、「信じていない」は77%、神や仏が存在すると思う人は40%という結果が出ている。

 アメリカの宗教別の信者数の割合はどうかと言うと、プロテスタント57.8%、カトリック25%、ユダヤ教2.3%、その他の宗教8%、無宗教6.9%という数字が出ている(「クリスチャン・センチュリー」誌、1989年2月15日号)。

 プロテスタントにしぼって今日の状況を見ると、まずリベラルなメイン・ライン(主流派)の教会の場合、そのほとんどの教会が信徒の減少傾向を示している。

 1989年5月22日号の「タイム」誌によると、合同キリスト20%、長老25%、聖公会28%、合同メソジスト18%、ディサイプル派43%の減少となっている。そこでは、伝道の情熱は消え、信徒は積極的な教会活動から遠ざかる傾向がより顕著になってきていると指摘されている。

 これらのメイン・ライン教会の傾向とは対照的に、ファンダメンタリズム・福音派の諸教会は、ほとんど例外なく復興と上昇線を描いてきいている。アメリカN.C.Cの要職にあったディーン・ケリーの『なぜ保守派の教会は成長するのか─宗教社会学上の一考察』(1972)は、そのことを物語る1958年から70年までのデータを公表している。この書における分析は宣教論上、大変有意義である。

 『アメリカ・カナダ教会年鑑』の1980年版によると、筆者が所属する日本長老教会と協力関係を持っているアメリカ長老教会(保守系が合同して1973年に設立)は、当時実に11.9%の成長率を示している! 現在は全般的に鈍化の傾向にある。

 6月号で紹介したハロラン芙美子氏の『アメリカ精神の源』(1991)によると、今日、実に人口の25%、数にして4千万人から5千万人がファンダメンタリズムあるいは福音派系のクリスチャンであるといわれている。

 従来「インディアンの保護区的存在」(やがて徐々に消滅して行くものの意)と冷ややかにあしらわれてきた経過から考えると、これは特に伝道の面から検討に価する一つの注目すべき現象であると言わざるを得ない! 

 メイン・ラインに属する福音主義者のドナルド・ブローシュ(ドビューク大学)が、すでに1973年の時点で『エバンジェリカル・ルネッサンス』を著したことは、きわめて印象的かつ示唆的であったと言える。