現代人に必要な賢者の生活リズム 現代人に必要な賢者の生活リズム


横田法路 
日本イエス・キリスト教団福岡教会 牧師

昨年の夏、「キリスト者の霊性」について学ぶために、カナダのバンクーバーにあるリージェント大学に行きました。三週間の滞在中、クラスとは別に楽しみにしていたのが、日曜日の礼拝でした。どこの教会に行ったらいいか、日本人の留学生、カナダ人の学生、リージェント大学の教授、いろいろな人に尋ねました。するとみな異口同音に、「とてもいい教会だよ」と薦めてくれたのがテンス教会でした。毎週二千人が集い、今も成長を続けている教会です。驚いたことは、その教会の主任牧師は、比較的若い四十代の日系人でした。
さっそくその教会に行き、礼拝に出ました。ワーシップチームが賛美をリードし、その後に牧師が出てきて、メッセージをしました。特別なことがあるわけではないのですが、確かに、教会の雰囲気がとてもいいのです。肌の色が異なる実に多様な人たちが大勢集まっていて、彼らを包み込むような優しさが会堂に満ちており、一人ひとりが生き生きと生かされているのを感じました(わたしの小学生と幼稚園児の息子と娘も、英語が全く分からないのに、この教会が大好きになり、喜んでキャンプに通いました)。
わたしは、主任牧師のケン・シゲマツ先生にぜひ会ってみたいと思い、知り合いに連絡を取ってもらいました。すると、サバティカル(長期休暇中)であったにもかかわらず、会ってくださることになりました。待ち合わせ場所のコーヒーショップに、カジュアルな姿で自転車に乗って現れました。見た目は黒い髪の日本人ですが、それからの二時間ひたすら英語で会話し、とても楽しい時でした。爽やか、誠実、謙遜で、思いやりに満ちたケン先生の人柄に、すぐに惹きつけられました。     * 
この夏、そのケン先生の本が日本語になって出版されます。邦訳のタイトルは『忙しい人を支える賢者の生活リズム』で、クリスチャンの霊的成長に関する本です。昨今の出版事情では、千部売るのも大変だそうですが、この本の原書は、発売後一年で一万九千部売れ、オランダ語にも翻訳され、カナダで最も権威あるワード・ギルド賞(二〇一四年)を受賞しました。今回の翻訳出版は、日本の教会が抱えている課題に光を与え、クリスチャンの霊的成長のために大変有益であると思います。以下では、そのような観点から、本書の魅力を紹介します。

信仰生活の課題

「(自分たちは)人生の大部分の時間を職場で過ごしています。だからこそ、働く意味が知りたいのです。」四十代のあるクリスチャン男性が、教会のスモールグループの中で発した言葉を忘れることができません。牧師や教会のリーダーを別にすれば、多くのクリスチャンは、一日また一週間の大半を、職場、家庭、学校などで過ごしています。「世の光・地の塩」として彼らはそれぞれの生活世界へと遣わされています。
そのような生活と証しの現場で、キリストにあって具体的にどのように生きるようにと神さまに召されているのか、多くのクリスチャンは知りたいと思っています。しかしながら、そのような霊的ニーズに、教会はこれまで十分応えてこなかったのではないでしょうか。神との交わり(信仰生活)は教会堂の中や日曜日だけにとどまり、それ以外の場所や時では、この世の価値基準で生活するというダブルスタンダードこそが課題で、それがクリスチャンの霊的成長を阻み、「世の光・地の塩」としての証しの力を奪っているように思うのです。
しかしながら、先の男性の声にもあるように、忙しくてなかなか教会の集まりや直接的な働きに時間が取れなくても、神さまともっと真剣に向き合いたいと思っているクリスチャンは、多いのではないでしょうか。『忙しい人を支える賢者の生活リズム』は、そのような人たちにとても役に立ち、励ましを与える本です。

本書のユニークさ

それでは、現代のクリスチャンが抱えているダブルスタンダードのジレンマを解く鍵はどこにあるのでしょうか。本書はそれを、キリスト教の霊性の豊かな伝統の中に見いだします。本書で取り上げている聖ベネディクトは六世紀の人で、西方教会における修道院制度の創設者です。彼が定めた「生活のルール」の目的は、神の恵みにより、共同生活の中で、神を求め、福音を生きることです。彼は、プロテスタントが生まれる宗教改革より十世紀も前の人で、当時クリスチャンといえば、カトリックしかなかったわけですから、聖ベネディクトや他の古代クリスチャンのような賢者が指導した霊的訓練を学ぶことは、今日のクリスチャンの霊性を育む上で、有益です。
著者のケン・シゲマツ氏は、アイルランドでの一つの経験をきっかけに、聖ベネディクトの霊性の神学をオックスフォード大学で学ぶようになります。その後、サンフランシスコ神学校で博士論文を書き、それが本書の土台となっています。特筆すべきことは、この分野のパイオニアであるリチャード・フォスターの『スピリチュアリティ 成長への道』以降、さまざまな著者が同様の霊的訓練の本を出しています。しかし、それらはすべて成熟したクリスチャン向けで、時間に余裕があるシニアが読者対象でした。内容的にも、抽象的なものが多かったわけです。
それらに対して本書は、比較的若い著者(四十九歳)が、現役でバリバリ仕事や子育て、学生生活などで忙しい人たちのために、実際的な内容で聖ベネディクトの「生活のルール」を解釈し、その生活リズムを現代の生活に適用したというところに、ユニークさがあります。

本書の内容
各章のタイトルは以下のようになっています。

修道士、武士、クリスチャン
霊的環境を整える
融通のきくルール
安息日:体と魂の安らぎ
祈り:神との関係を深める
魂を養う聖書の読み方
信仰の友
性と霊性
家族の絆
食べる、寝る、泳ぐ
子どものように遊ぶ
お金は主人か、召使いか
月曜日が待ち遠しい
神のご臨在を分かち合う

タイトルを一瞥して分かるように、本書は、日常生活の「すべて」において神との交わりを楽しむことを教えています(本書の原題は、God in My Everything)。また、著者が実践し、体験したストーリーがよく出てくるので、とても分かりやすく、生活への適用のためのヒントが満載です。

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著者は二歳まで東京で生まれ育ち、その後はカナダに移住しますが、大学卒業後、再び東京に住み、二年間ソニーで働いたという経験をもちます。また奥様とも東京で出会われ、結婚に導かれます。そのようなこともあって、日本での話が随所に見られ、わたしたち日本の読者には、特に親近感がわいてきます。ビジネスマンとしての経験、夫や父親としての失敗談なども飾らずに、ユーモアを込めて語られており、時間を忘れて、ついつい読み進めたくなる良書です。
最後に、翻訳についてですが、本書はケン先生の奥様の早基子さんが訳されました。ケン先生の最も良き理解者ですので、先生の伝えたいことが正確に表現されています。それでいて、訳文のリズム感もよく、どの年齢層の方にも、読みやすい本となっています。一人で読むのもいいですが、各章の最後にディスカッションガイドもついていますので、教会のスモールグループ等のテキストとしても有益です。本書を心からお薦めします。

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