ブック・レビュー 無縁社会”の中で、生きる希望―〝絆”の再生を願い

 『もう、ひとりにさせない   』
藤井 理恵
淀川キリスト教病院チャプレン

「あっ、奥田君だ!」
思わず声をあげたのは、十年ほど前に彼が立ち上げたNPО法人(北九州ホームレス支援機構)の働きがテレビで取り上げられているのを観たときだった。
「やっぱり彼は、この問題を担い続けていたのだ……」
著者の奥田知志氏は、関西学院神学部の大学院で同じゼミに属した同級生である。彼は神学部在学中、先輩に連れて行かれた釜ヶ崎で衝撃を受け、ホームレス(絆が切れた人)にかかわり始め、以来二十年以上にわたりその働きを続けている。彼は現在の「自己責任論社会」は、他者にかかわらないことを正当化する「無責任論社会」であると語る。それによって絆を断たれた人々は助けを求めることすらできず、生きる希望を失っていく―。そんな〝無縁社会”にもう一度絆を取り戻そうとしている。
本書は本誌連載に大幅加筆し、出版されたものである。絆を結ぼうとするとき、そこには必ず痛みや傷が伴う。彼は、自分のために傷つかれたキリストに支えられ、その傷を引き受けたいと願う。絆を結ぼうとするとき、百パーセントその人の立場に身を置けない、やるせない自分の限界を見せられる。だから彼は自らの働きを、キリストの十字架の贖いを必要とする「罪人の運動」という。
本書には、社会変革のための方法論ではなく、路上の一人ひとりとの出会いの中から呻くようにして紡ぎ出された言葉がつづられている。だから、社会を構成する個人に深く迫ってくる。そのため読む者は自らのあり方を問われるだろう。しかし、そこに追い詰められるような息苦しさがないのは、本書の奥底に流れている「もう、ひとりにさせない」とのメッセージと祈りが、読む者自身の心の孤独にも響いてくるからだ。各所に引用される聖書のことばとの新たな出会いも経験させられる。そのメッセージに支えられ、小さな一歩を踏み出そうとする読者の静かな決意は、無縁社会の分厚い壁をさらに動かしていく力になるだろう。
ぜひとも多くの人に読んでいただきたい良書である。特に牧師、神学生には必読の書としてお薦めしたい。